当園では「食べ物を使ったアイコンタクト」は行っておりません

犬のしつけの入門本やレッスンなどでよく見られる「おやつを使って目を見るように誘導するアイコンタクト」。
実は、当園ではこの方法を取り入れていません。

その理由を、できるだけわかりやすくお伝えします。


■ 「アイコンタクト=いいことが起きる」は、落とし穴も

例えば、おやつを眉間あたりに見せながら目を見るよう誘導すると、
犬はすぐに覚えてくれるかもしれません。簡単で、見た目にも「しつけっぽい」トレーニングです。

でも、それが日常で本当に役立つかというと、実はそうでもありません。


■ ストレスと混乱を生むことも…

おやつを持っているときだけ報酬がもらえる → 見る。
でも、日常生活ではおやつがない → 見ても何も起きない。

この「報酬があったりなかったり」の状況は、実はギャンブルのような作用を持ちます。
結果的に、犬は“もっと見つめれば何か起きるはず”と目をじっと見続けるようになる事もあり
報酬がないと要求吠えやイライラ、場合によっては噛みつきにつながることもあります。

これでは、しつけが原因でストレスを与えてしまうことになります。
要するにアイコンタクトマシーンになる可能性が充分に出てきてしまいます。


■ 行動が偏り、犬らしさが失われていく

本来、犬は目と目が合うのを避ける動物です。
しかし、アイコンタクトを強化しすぎてしまうと、人や他の犬をじっと見つめることが日常生活で“正解”になる事もあり、
犬本来の自然な行動が失われてしまいます。

たとえばノーズワーク(嗅覚を使った遊び)でも、
「匂いを探すより、飼い主の目を見ればおやつがもらえる」と思い込んでしまい、
鼻を使う行動が出てこないケースもあります。

これは、自分から行動を選べない「トリーツ待ち」「指示待ち」の状態です。
この状態になると、犬が自発的に動く力を失ってしまうのです。


■ 健康状態や本音のサインが見えづらくなる

アイコンタクトを強化してしまうと、犬が何かを訴えて見ているのか
それともただの習慣で見ているのかが、わかりにくくなってしまいます。

たとえば体調が悪いときに目で訴えたとしても、
いつも目を見ている子だと、異変に気づきにくくなることがあります。


■ 本来の行動が取れることは、動物福祉の基本

動物福祉には「5つの自由」という考え方があり、
その中のひとつに“本来の行動が取れる自由”があります。

食べ物で目を見させることで自然な行動が失われると、
この自由に反することにもなりかねません。

当園では、犬のQOL(生活の質)を大切にしたいと考えています。


■ じゃあ、どうすればいいの?

当園では、「自然に目を見てくれたら嬉しいな」くらいの気持ちで接しています。
無理に教えるのではなく、アイコンタクトは自然に生まれるものと考えています。

もし犬が食べ物を使ってトレーニングで強化されてしまっておりじっと見てきた場合には、
→ 食べ物をすぐに与えず、少し投げて自分で探してもらう
→ 別の動き(トリックや遊び)に切り替える

などの対応をしています。


■「幸せホルモンが出るからアイコンタクトは良い」は本当?

よく「アイコンタクトでオキシトシン(幸せホルモン)が出る」と言われますが、
これは犬が自発的に飼い主を見たときに分泌されるものです。

雑誌やネットの切り抜き記事等により
「アイコンタクトをすれば幸せホルモンが分泌される」
が切り取られて、トレーニングすれば同じと思われてしまっているのが現状です。

食べ物を使って強制的に目を見せる方法では、
この効果は期待できません。

※参考:麻布大学の研究報告


■ 無理に行動を「消す」しつけもしていません

行動をやめさせるために「我慢させる」「無視する」などの方法も、
犬のストレスにつながることが多く、当園では推奨していません。

たとえば、フードを見せて長く待たせることで、
フードアグレッシブ(食べ物への攻撃性)になる例もよくあります。

「行動を消す」よりも、選択できる行動を増やすことが大切だと考えています。


■ まとめ

  • アイコンタクトは、自然に生まれる関係性の中で育まれるものです

  • 犬が自分で考え、自分で行動を選ぶことを大切にしたい

  • だから当園では「トリーツで目に誘導するアイコンタクト」は行いません